Culture
2022.05.13

エッセイで知る寬仁親王殿下の素顔(第2回)『ひげの殿下日記』より「正月雑感」

この記事を書いた人
この記事に合いの手する人

この記事に合いの手する人

本書には、自分に正直に、皇族として、一人の人間として、66年の生涯を生き抜かれた寬仁親王のありのままの思いが詰まっている。(彬子女王殿下)
『ひげの殿下日記~The Diary of the Bearded Prince~』 はじめに より

2012年に薨去された、寬仁親王殿下(ともひとしんのうでんか)。薨去から10年にあたる2022年、殿下が生前に書き続けてこられたエッセイが出版されることになりました。タイトルは『ひげの殿下日記~The Diary of the Bearded Prince~』。1980年から2011年にかけて発刊された、寬仁親王殿下が会長を務める柏朋会(はくほうかい)の会報誌『ザ・トド』、この誌面に掲載されたエッセイ「とどのおしゃべり」を再構成した書籍です。

柏朋会(はくほうかい) 会報誌『ザ・トド』より

興味深い皇室のお正月

この記事では、『ひげの殿下日記~The Diary of the Bearded Prince~』の中から、殿下のお人柄や、皇室の様子がうかがえるエッセイの一部をご紹介します。前回の記事は、こちらです。

エッセイで知る寬仁親王殿下の素顔『ひげの殿下日記』より「身障者スキー合宿」

殿下が身体障害者スキー合宿のコーチをお引き受けになるまでのいきさつが綴られています。

熱意と信念を持って、スキー指導をされる、殿下の様子がわかる日記でした。

寬仁親王殿下
1946年1月5日、大正天皇第四皇子である三笠宮崇仁親王の第一男子として誕生。1968年、学習院大学法学部政治学科卒業後、英国オックスフォード大学モードリン・コレッジに留学。帰国後、札幌オリンピック冬季大会組識委員会事務局、沖縄国際海洋博覧会世界海洋青少年大会事務局に勤務。「ひげの殿下」の愛称で国民に親しまれ、柏朋会やありのまま舎などの運営に関わり、障害者福祉や、スポーツ振興、青少年育成、国際親善など幅広い分野の活動に取り組まれた。著書に『トモさんのえげれす留学』(文藝春秋)、『皇族のひとりごと』(二見書房)、『雪は友だちーートモさんの身障者スキー教室』(光文社)、『今ベールを脱ぐジェントルマンの極意』(小学館)など。2012年薨去。

今回ご紹介するエッセイ「正月雑感」は、殿下が皇室のお正月について書かれた文章です。私が思い浮かべる「皇室のお正月」というと、皇族方が宮殿のベランダにお出ましになり、国民からの祝賀をお受けになっているお姿です。この新年の一般参賀の印象が強いのですが、他にも様々な行事があって、お忙しい様子がリアルに伝わってきました。

当時の中曽根総理大臣や、若き日の麻生太郎氏も登場します!

ご紹介するエッセイでは、お忙しく過ごされる日々の中でも、周囲を見渡す殿下の観察力が冴え渡ります! 緊張感を伴うセレモニー中の、ユーモアを交えたエピソードが楽しいです。私たちが、普段知ることができない世界。どこか遠くに感じがちな皇室が、身近に感じられます。

正月雑感(1983年1月16日)

文・寬仁親王殿下

 新年おめでとうございます。
 今年も又本物の福祉をめざして、ユニークな活動を続けてまいりたいとかんがえておりますので、会員各位のかわらない御声援と御協力をお願い致します。
  柏朋会と名称が変更されてから、早や五回目のお正月を迎える事になりました。身障友の会応援団と称していた頃から通算すると、実に九年目になります。柏朋会に名称変更した時皆が心配した事の一つに、通常よくあるように、○○○を応援する会とか○○○○○を助ける会のように、対象が障害者であるとはっきりわかっていた方が良くはないのかという事がありました。しかし、当時私は、当初はわからなくても仕方がないが、ゆくゆくは世の中の人々が、柏朋会と聞けば、「ああ!あのユニークな福祉団体だな」と思うようになるまで、がんばればいいと思っておりました。そしてこの事は、今完全に世の中に定着したと御報告が出来るようになった事が、私にとって大変うれしい事であります。

 さて私共の正月風景をいくつか書いてみようと思います。元旦はエンビ服に勲章をぶらさげて皇居にカンヅメとなります。我々がまず両陛下に新年のごあいさつを申し上げます。次に両陛下のお供をして、宮殿の各部屋を回って参列者の祝賀を両陛下がお受けになるのに供奉(ぐぶ)します。総理大臣と閣僚・衆参両院議員・最高裁長官と判事・各国外交団という風に順番に祝賀をお受けになります。中曽根(なかそね)さんは、緊張のせいかちょっぴりつまりましたが、ほぼすらすらとあいさつをしました。最高裁長官は、とうとうと始めたので、本年一番かと思って聞いていた所、途中で、何でもない所でつまったとたん、簡単な言葉、「新春のおよろこびを……」か、なにかが出てこなくなってずい分長い事止まってしまいました。衆参両院議員の部屋では両院議長が、二人で代表してあいさつをし、うしろに出席を希望した両院議員がずらりとならんでいるわけですが、私の立つべき所にいって、ザアーっとながめた所幾人も知った顔がいましたが、私からみて右手の三列目位に、麻生太郎(ノンチの長兄)がみえたのでニヤッとしたら向こうも、しゃっちょこばって拝礼をかえしてきました。
 出口に向かう時、ノンチに太郎がいるぞと教えたら、ノンチにも拝礼をしていました。あとでノンチと、「やけに太郎は青い顔をしているな!」と話していたのですが、数日たって彼にあったので聞いたら、おおみそかは朝の三時頃までオフクロさんと話し込んでいたらしく、低血圧の彼としては死ぬ思いで皇居にきていた事がわかりました。

 元旦の日はこういう風に一日中皇居にいる為(ため)に、年賀のお客様を我家で迎えることが出来ません。従(したが)って二日が、各宮家ともその日に当たります。
 三日は元始祭(げんしさい)といって、我々一般皇族が、初めて賢所(かしこどころ)に参拝します。(陛下は元旦のあけ方からお祭りをなさいます)。賢所のお祭りには大祭と小祭があり、大祭の時は私は代表幹事服部氏作のフロックコートを着ていきます。(別にフロックコートだけが彼の作品ではなく、私の場合八十%が彼の作品ですが)。その上にインバネスと呼ばれ、通称二重回しといわれるオーバーを着て、シルクハットを持ちます。

 このお祭りが済むと丁度、三日は高松宮殿下のお誕生日なので伯父様のお宅にうかがってプレゼントを差し上げ、祝膳をいただきます。今年は、お祭りが終って家にもどってきたら年賀の客が来ていて話し込んでしまったので、私にとっての昼食を伯父様の所で食べたというかっこうになりました。
 伯父様は七十八歳におなりですが、髪は黒々として毒舌はさえわたり、とてもお年寄にはみえません。彬子も初めてのお年賀に同行しました。我家では誰かのヒザでおとなしく笑っているという事はまずないのですが、この日ばかりは極めてお静かで、沢山の人々から、「お静かで大したものだ」とか「さすがおしつけが良い」などといわれていましたが、私の小さい頃も大人の席では静かにしており、カゲでは悪さをするというパターンで生きていましたから、同じタイプであるわいなと思いつつみておりました。

 四日は秩父宮殿下の御命日。
  今年は三十年式年祭で、表町御殿(おもてまちごてん)と豊島岡(としまがおか)で盛大なお祭りがありました。この伯父様、オックスフォード大モードリンコレッジの先輩であり、当時ボートの選手。留学中スイスアルプスをほぼ全部踏破された、当時のトップアルピニストでいらっしゃいました。私はこの伯父様の足あとばかりを追っかけてきた人間であり、大層感慨深いものがあります。

 五日は私の三十七歳の誕生日。
 柏朋会の幹部連中が年始を兼ねて、来てくれました。
 ここ数年皆様が来てくださる事が通例になってきましたが、どうも各人の待ち合い場所というか、落ち合う所となっている様で……、確かに、我が家で祝膳を囲んで飲んだり食べたりしながら各人を待つというのは大層便利であると思います。
  丁度、幹部連中が来てくれている時、靖国神社の宮平宮司が、仕事の打ち合せで来ており、奥のソファーで私とボソボソ話していたのですが、あとで聞いたら編集長の曽利和代さん一家は我が家のあと靖国神社におまいりし、その際車から降りる時失敗して上腕を骨折してしまったとの事。
 今思えば、こうとわかっていれば、宮司さんにいって充分なヘルプを頼んで、この様な事故もなかったのかなぁなどと考えてみましたが、時すでに遅しでありました。一日も早い回復を祈っています。
 会員各位の今年の御活躍を祈りつつ、一九八三年の第一号の筆をおきます。

『ひげの殿下日記~The Diary of the Bearded Prince~』

出版社:小学館
著者:寬仁親王殿下
監修者:彬子女王殿下
発売日:2022年6月1日
価格:4000円+税
ページ数:608ページ

書いた人

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。十五代目片岡仁左衛門ラブ。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。

この記事に合いの手する人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。