現役の官公庁建物として日本最古
京都御所の西に位置する京都府庁旧本館は、明治37(1904)年に完成しました。元は幕末に幕府の京都守護職が置かれたところで、広大な屋敷があったのだとか。正門から入ってすぐの場所に、屋敷碑がありました。
間近で見る旧本館は、まるで外国映画に出てくる大邸宅のよう。昭和46(1971)年まで本館として使い、現在も執務室や会議室として利用しています。創建時の姿をとどめる現役の官公庁建物として、日本最古なのだそうです。平成16(2004)年に国の重要文化財に指定されました。
「これだけの規模の歴史ある近代建築は、全国的に見ても珍しいと思います」と、京都府 総務部 府有資産活用課参事・藤原利春さんは話します。当時のルネサンス様式の最先端を誇る建物は、正面が左右対称で、横長のデザイン。上空から見ると、ぐるりとロの字型になっていて、中には名庭園として知られる中庭があります。
落ち着いた色調の外観も美しく、正面に突き出た石造りのバルコニーがアクセントになっています。いたるところに施された装飾も、荘厳さを演出しているよう。
貴婦人が現れそうなゴージャスな室内
中に入ると、大理石の手すりがついた階段が現れて、圧倒されました。階段の上からドレスを着た貴婦人が下りてきそうな……。
映画やテレビドラマが好きな人なら、あの名場面の場所?と思い浮かぶかもしれません。旧本館は、NHKドラマ「坂の上の雲」など数々の作品のロケ地にも使用されています。ここへ来ると、物語の主人公になったような気分が味わえますね。
踊り場の装飾も見事で、目を奪われます。建物内部は、和風の技も巧みに取り入れられているそうで、和モダンの落ち着いた雰囲気が漂っています。「旧知事公舎や旧会議場、式典や公式行事が行われていた正庁(せいちょう)も一般に公開されているのですよ」と、京都府商工労働観光部観光室 課長補佐兼係長の山田恵子さん。
創建された年号が名前に入ったカフェ
風情ある前庭を見渡せる南東角にあるカフェ「salon de 1904」は、オープンして以来、口コミで人気が広がっています。旧本館が建てられた年号が入ったネーミングで、入り口のプレートも印象的。
ちょうどランチタイムの時間帯で、混み合っていましたが、隣に待合室があるので、ゆったりと過ごすことができました。広々としたクラシカルな部屋で順番を待つなど、通常のカフェでは経験できないので特別感があります。
こちらのカフェを経営する「前田珈琲」は、1971年創業の老舗店。美術館内のカフェなど、アートや文化に関わる施設とコラボしたお店を多く展開していることで知られています。キッチンが床から少し高くなっているのは、別の場所で作ったものを舞台セットのように、はめ込んでいるから。このように元の部屋を傷つけず、維持するための細心の注意が払われています。
前田珈琲の顔ともいえる自家焙煎の「スペシャルブレンド珈琲 龍之助」は、苦みを抑え、適度な酸味があるのが特徴。すっきりとしていて、それでいてコクを感じる味わいでした。「お客様からは、飲みやすいと言っていただいています。一番人気ですね」と、前田珈琲マネージャーの広島まどかさん。
まさに眼福!こだわりのしつらえ
店内は、建物の特徴である白壁と茶色の腰板、赤いカーペットをそのまま活かして使われています。テーブルや椅子の一部は、旧知事校舎などで、実際に使用していたものなのだとか。「元々この部屋は、執務室として使われていたのですよ」と山田さん。窓側に置かれたシックなソファーも、当時のものと知ると、感慨深い気持になります。
創業者の父から引き継いで、現在2代目社長の前田剛さんは、裏千家で茶道を学んだことが、大きな転機になったそうです。京都の主だった寺院の僧侶、伝統芸能の演者など、文化人との縁が広がる内に、ある考えが浮かびます。茶の湯の精神にも繋がる、芸術サロンのような役割を前田珈琲が担えないだろうかと。
前田さんの心意気は、「salon de 1904」のしつらえからも感じられます。壁にはさまざまな絵画が飾られ、天井を見上げると、異国情緒漂うシャンデリアが。藤原さんがインテリアとして置かれたカップを、手に取って見せてくださいました。「底を光に透かすと 芸妓のような顔が浮かび上がるようになっているのですよ。このカップは外国製のアンティークで、戦後日本から輸出されたものだそうです」
リピーターが多い人気の軽食メニュー
前田珈琲の人気軽食メニューを、広島マネージャ—から教えていただきました。「名物ナポリタンスパゲティ」は、創業当時からの変わらない味で、幅広い層から愛されている定番メニューだそうです。シックな器に、ナポリタンの鮮やかな色合いが映えて、食欲をそそります。
外側のパンを香ばしく焼いて、中の具材がボリューミーな「ホットミックスサンド」も、変わらぬ人気だそうです。焼き卵と厚切りハム、野菜がサンドされていて、サラダも添えられているのが嬉しいですね。
紅葉や桜のシーズンの休憩場所に最適
建物が取り囲む中庭には、円山公園の初代「祇園しだれ桜」の孫にあたるしだれ桜を始め、6種7本の桜があり、府民に親しまれています。毎年春の季節には「観桜祭(かんおうさい)」が開催され多くの人で賑わうのだとか。秋にはさまざまなジャンルのコンサートなどを披露する「観芸祭」もあります。
「是非、お花見や紅葉の時期の休憩場所として利用して欲しいですね。旧本館は来年120年を迎えますが、レトロな建物と、カフェがマッチしている魅力を味わってもらえたらと思います」と藤原さん。ランチタイムは人気で混み合うことが多いので、朝の時間が狙い目との情報も教えていただきました。ボリュームのあるモーニングセットもお勧め。少し早起きをして、「salon de 1904」で朝食を食べてから、旧本館巡りや、京都観光をするのもいいかもしれません。
基本情報
京都府庁旧本館
京都市上京区下立通新町西入藪ノ内町
公式ウェブサイト:https://www.pref.kyoto.jp/qhonkan/
旧本館カフェ「salon de 1904」
公式ウェブサイト:https://www.maedacoffee.com/shopinfo/fucho/
スチール撮影/伊藤信 映像/渡辺誠司、 RIVERSCAPE