茶碗という存在から考える「用の美」
米国シカゴを拠点に活動する現代アーティスト、シアスター・ゲイツ。2004年に来日し、愛知県常滑市で陶芸を学んだ経験を機に、日本の工芸や民藝への関心を深めました。こうした背景は、その後のプロジェクトにも影響を与え、「アフロ民藝」という独自の概念にもつながっています。
建築や彫刻、音楽など複数の分野を横断しながら、都市再生を中心とした文化や歴史的資源を再解釈する活動により、国際的に評価を受けているアーティストです。
今回のプロジェクトの中心となるのは、同氏によって構想された陶芸作品の数々。それらは鑑賞の対象にとどまらず、手に取り、使い、時間とともに関係を育てていく“器”として存在しています。

とりわけ象徴的なのが、日本の茶道文化における「茶碗(chawan)」です。道具としてだけではなく所作そのものを体現し、もてなしの表現として配慮や敬意、その場に在ることの意味を伝える存在である茶碗。
これに対し、日常的に使用される「湯呑(yunomi)」は、日々の暮らしに寄り添い、習慣や穏やかな安らぎを象徴するものといえるでしょう。そして、「ぐい呑(guinomi)」や「徳利(tokkuri)」は、人と人とのつながりや信頼を強化する役割を担っています。
このように、器は暮らしのなかで関係性を育てる媒介として機能します。美しいから愛でるのではなく、使用することで本質的な価値が際立っていく――“用の美”ともいえる感覚が、このプロジェクトの根底に流れているのかもしれません。
シアスター・ゲイツが描く、静けさをたたえた空間

会場空間は、日本の静謐な住まいを想起させる環境として設計されました。床には常滑の水野製陶園ラボと協働したセラミックタイル、壁面には日本の伝統的な左官技術に着想を得た土壁、中央には再生木材による長いテーブルが据えられ、整いすぎない素材の表情が空間に深みを与えています。
中庭には茶室も設けられ、演出としてではなく実際に茶会が行われる場として使われるのだとか。展示にとどまらず、営みそのものを内包するこの空間は、所有から体験へと視点を移し、器と人との関係をより深く問いかけます。
日本の陶芸と現代アートが共鳴

展示では、シアスター・ゲイツの作品に加え、日本の陶芸家たちの作品が並びます。日本の陶芸家であり親交のある作家たち、黒木泰等(京都)、平野祐一(常滑)、田端志音(軽井沢)、大原光一(常滑)らの作品が紹介され、それぞれがシアスター・ゲイツの作品と対話するように配置されています。
さらに日本製のPrada Homeのセレクションも交えながら、クラフツマンシップの知性、文化的な深み、住空間や儀礼空間の内面的価値を問いかけるように空間が広がります。
イタリアのデザイン、日本の工芸、そしてシアスター・ゲイツの提示する現代アートという異なる文脈が共鳴するこの展示は、私たちの生き方や人との関わり方についての広範な問いを提示します。何を選び、どう使い、どのように時間を重ねていくのか。そんな問いに向き合うことで、最も人間的でシンプルな所作や器でさえ、深い意味と存在感を現すのだと、「CHAWAN CABINET」は語りかけています。
「CHAWAN CABINET by THEASTER GATES」会場
PRADA HOME | CHAWAN CABINET
BY THEASTER GATES
VIA MONTENAPOLEONE 6

