イタリアのラグジュアリーブランド「ブルネロ クチネリ」が、輪島の漆器店『千舟堂(せんしゅうどう)』とコラボレーション。2024年元旦の能登半島地震で、被害に見舞われた漆職人の支援を行うべく、その第1弾として輪島塗の展示販売会『アーティストとの出会い 能登の漆職人との対話』が、「ブルネロ クチネリ表参道店」で開かれています(8月31日まで)。7月13日には、特別イベントとして『千舟堂』代表取締役・岡垣祐吾(おかがきゆうご)さん、そして蒔絵師の代田和哉(しろたかずや)さん、塗師の余門晴彦(よもんはるひこ)さんが来訪。輪島の現状と、輪島塗の魅力についてお話しされました。
「ブルネロ クチネリ」と輪島塗の運命的な出会い
このコラボレーションは、「ブルネロ クチネリ ジャパン」代表取締役社長の宮川ダビデさんと岡垣さんの、運命的な出会いから始まりました。ある日、通りを歩いていた宮川さんが『千舟堂』の販売会に遭遇。能登半島地震以来、ブランドとして何か応援できることはないかと思案していた宮川さんが、さっそく岡垣さんに相談し、異例のスピードで今回のプロジェクトが立ち上がったといいます。
そもそも「ブルネロ クチネリ」の理念は「働く者の尊厳を尊重する」こと。本拠地はイタリア・ウンブリア州のソロメオ村。丘陵地にそびえる中世の古城と集落を修復し、本社と工場を構えています。さらに劇場の設立、職人の育成学校の創立、そして公園の造営など、ファッションブランドとしてだけでなく、地域社会へも貢献する企業として、世界から大きな注目が。誰よりも地域の発展や、職人技術の継承を実践してきたブランドだからこそ、今回の能登支援も自然な流れでした。
人の言葉が、何より職人の励みになる
『千舟堂』の岡垣さん曰く「今必要なのは、職人が安心して作業ができる環境と、何よりも励みになる言葉です」。震災で自宅や作業場が崩壊し、物理的にも精神的にも、仕事が再開できる人とそうでない人が、大きく分かれているのだとか。輪島塗は、数多くの工程を分業制によって行うため、職人がそろわないと作業が再開できないという課題があります。岡垣さんは、ひとりでも多くの職人が仕事を再開できる場を提供し、輪島塗の伝統をつないでいくことに、改めて尽力したいと語ります。
「人の言葉は、職人の背中を押してくれます。『素敵な作品ですね』とか『おうちで大切に使います』とか、内容はなんでもいいんです。私は職人のみなさんに、そういった生の声、感想を伝えることで、活動を再開するきっかけづくりができたらと思っているんです」
イベントでは、職人たちによる簡単なデモストレーションも。塗師の余門晴彦さんは、江戸時代から続く漆職人の家系に育った4代目。今回の震災で自宅は全壊しましたが、自分の代で終わらせるわけにはいかないと、すぐに仕事の再開を決めたとか。現在は先輩から譲り受けた工房と道具で、作品づくりを続けています。
蒔絵師の代田和哉さんも、震災により自宅が崩壊。現在は加賀市に避難し、仕事を再開されています。イベント中は、代田さんが描く、大胆かつ繊細な鶏や鷹の生き生きとした姿に、観客からため息が漏れる瞬間もありました。
会期中は、ほかにもさまざまな輪島塗の作品を展示。器だけでなく家具など、普段あまり見る機会のない大作を見ることもできます。輪島塗の幅広い作風や色彩に、改めて驚かされるのではないでしょうか。
「ブルネロ クチネリ」では、これからもさまざまな形で、能登への支援を継続していく予定です。私たちもまずは美しい輪島塗に触れ、知ることから、何ができるかを考えてみてはいかがでしょう。
Information
『アーティストとの出会い 能登の漆職人との対話』
期間:開催中〜8月31日(土)まで
営業時間:11時〜20時 不定休
場所:ブルネロ クチネリ表参道店 B2Fアートスペース 東京都港区南青山3-17-11
電話番号:03-6434-9520
撮影/片山延立及 構成/湯口かおり、古里典子(和樂編集部)