Culture

2023.08.07

華道男子グループ「IKENOBOYS」って? メンバーに聞く「新たなる挑戦」

いけばなというと、古風で堅苦しい、難しそうと思う人もいるかもしれません。そんな印象を覆す、華道を学ぶ男子グループがいるのを、ご存知でしょうか。「IKENOBOYS(イケノボーイズ)」は、華道家元池坊がプロデュースする花をいけるメンズ(=イケメン)グループ。公式ウェブサイトを見ると、男性アイドルのような華やかさです! がぜん興味がわいたので、いけばなの魅力を発信しているメンバーの1人に、話を伺いました。

いけばな発祥の地、六角堂

訪れたのは、京都市中京区にある華道家元池坊の本拠地のビル。隣には聖徳太子が創建し、親鸞(しんらん)が籠もって夢のお告げを受けたことで知られる「六角堂(ろっかくどう)」※があります。

本堂が六角形を成していることから「六角堂」と呼ばれる

六角堂は、いけばな発祥の地とされていて、華道家元池坊とは、深い結びつきがある場所です。六角堂(本堂)の北側は、聖徳太子が沐浴した池の跡と伝えられ、その池のほとりにあった僧侶の坊舎が「池坊」と呼ばれるようになったのが、名前の由来です。代々六角堂の住職を務める池坊は、仏前に花を供える中でさまざまな工夫を加え、室町時代の「いけばな」成立に至ったと伝えられています。

※正式名称は、紫雲山頂法寺(しうんざんちょうほうじ)

学童保育で出合ったいけばな

IKENOBOYSは、次世代へいけばなを継承する目的で、平成28(2016)年に結成されました。イベントやワークショップなど、いけばなの魅力を広める活動を続けています。同志社大学4年生の馬場健さんは、1年生の秋に加入したそうです。

「どうして若い男性がいけばなを?」と疑問だったのですが、馬場さんといけばなとの出合いは、小学校3年生に遡ります。「出身の宮崎県の学童保育に通っていたのですが、そこにいけばなの体験教室があったのです。お正月の花材の松をいけたら、全然うまくできなくて。でも先生が手を入れたら、数ミリ違うだけなのに、カッコ良く変化して、魔法みたいだと思いました」。その時に初めて触れた松の感触も、はっきりと覚えているそうです。

学童保育のいけばな教室で指導を受ける馬場さん

IKENOBOYSのメンバーになるには、職位は皆伝(かいでん)以上。入門から、初伝、中伝、皆伝と達した、いけばなを一定レベルまで学んだ人が集まっています。

いけばなは、自分を表現する手段

いけばなに魅了された馬場さんは、中学、高校に進学しても、お稽古を続けました。「いけばなの先生には、1人の人間として向き合っていただき、悩み事を聞いてもらったこともありました。先生との出会いがあったから、続けられたのだと思います」

内向的で、大人しい子どもだったと話す馬場さん。活発でスポーツマンの兄と比べられて、居心地の悪さを感じることもあったようです。「自分の気持ちを、唯一表現できるのが、いけばなでした。花と向き合っていると、周りの雑音が聞こえなくなるほど、集中していけていましたね」

インターネットで魅力を発信

馬場さんがIKENOBOYSに加入した時期は、コロナ禍に見舞われている最中でした。メンバー数名で大きな花器に花をいける「いけこみ」の様子を、池坊公式Facebookで配信すると、日本だけでなく、海外からもコメントが寄せられて、大きな反響があったそうです。

馬場さん作の『雨をいけよ』

「人と会うことが制限される時期に、インターネットに上がっているいけばなの写真をよく見るようになりました。自分でも、どうやったら写真で伝えられるかを考えるようになりました」

現在、事務局からお題が与えられ、メンバーが作品を作り、自ら写真に撮って公式インスタグラムに上げる取り組みを続けています。『雨をいけよ』のテーマでは、それぞれがイメージする雨の作品が多数アップされました。

「雨も五月雨とか、人によって思い描く雨は違うと思うので、1つの花器に4つのパターンを考えて、様々な雨を表現しました。フトイという植物で雨を表して、八重のひまわりは、これから訪れる夏の花が咲く準備をしているよと、その思いをこめました。他のメンバーの作品を見ると、その人らしさが出ていて、素敵だなと思いますね。自分も、もっと良い花をいけられるようになりたいと、刺激になります」

『雨をいけよ』の連作

辛い経験をしたからこそ、届けたい思い

馬場さんは子どもの頃からいけばなを続けていますが、男性ということで、色眼鏡で見られることもあったそうです。「IKENOBOYSとして活動することで、かつての自分のような思いをしている人たちの、励みになれたら嬉しいです。男性でも女性でもいけられるものなんだよと、特に同世代に伝えたいですね」

周囲の偏見を感じながらもいけばなを続けてきたのは、やはりいけばなが好きだから。「いけばなは、『ためる』と言って、枝や茎を指で少し力を加えて曲げて、植物に表情を与える技があります。また、花が一番美しく見えるように、角度を考えていけたりなど、終わりがありません」。馬場さんのいきいきとした表情から、思いが伝わってきます。

ライブパフォーマンスは、新たな挑戦だった

IKENOBOYSでは、大作のいけなばをいける様子を、観客に見てもらうイベントも行っています。「普段のお稽古では、大きな花器を使うことはありませんし、いけている様子を見られることもないので、先輩に教えてもらいながら、実践で覚えていったような感じです」

IKENOBOいけばなアート展@奈良2022

800人の観客の前で、長い伝統を受け継ぐ、格式のあるいけかた「礼式生け」を行った時は、緊張で手が震えたそうです。「何度も練習を重ねてリハーサルも行いましたが、植物は全く同じ物はないので、表情の違いなどを、その時に察知しなくてはいけません。そこが難しいところでもあり、面白いところなのだと思います」

第17回世界仏教婦人会大会

いけばなの和が広がる喜び

馬場さんのいけばなの入り口となった学童保育のいけばな教室は、今も続いていて、帰省した時には、助手としてお手伝いしたそうです。小さな後輩たちは、馬場さんを目標にしてお稽古に励んでいる様子。「昨年から母も先生のところで、いけばなを始めたんですよ」と、馬場さんは嬉しそうに話します。IKENOBOYSメンバーとして、真摯にいけばなに取り組む姿が、周囲に影響を与えているようです。

「いけばなに興味を持ったら、是非体験してほしいですね。実際に花に触れてみると、感じることがあると思います」。いけばなを続けてきたことで、自然と培われたこともあるそうです。「いつも、花のどの向きがきれいだろうかと考えているので、人間関係においても、この人の内面はこうなんじゃないかと、思い巡らすようになりました」

来年の春から、社会人になる馬場さんですが、「大きな展示会で作品を発表できるように、これからも精進したいですね」。馬場さんの華道の道は、これからも続きます。

IKENOBOYS公式ウェブサイト:https://www.ikenoboys.com/
IKENOBOYS公式インスタグラム:https://www.instagram.com/ikenoboys/

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瓦谷登貴子

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。
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