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「菩薩」は、悟りを求めて修行している仏様
如来になるための修行の最中にある「菩薩」は、釈迦(しゃか)が出家する前の姿がモデルになっています。古代インドの王子だった釈迦の身なりはとてもゴージャス! 髪を結って宝冠をかぶり、条帛(じょうはく)と裙(くん)や裳(も)を着て天衣(てんね)をまとい、瓔珞(ようらく)や臂釧(ひせん)、腕釧(わんせん)といったアクセサリーをつけ、如来とは大違いです。
修行中の王子・釈迦を表した、ちょっとゴージャスな姿
菩薩は如来が願う「人々の救済」を補佐するのが主な役割で、表情は基本的に柔和。なかでも「観音菩薩」はさまざまな人を救うために33もの姿に変化(へんげ)し、聖(しょう)、十一面、千手、准胝(じゅんてい)・不空羂索(ふくうけんさく)、馬頭(ばとう)、如意輪(にょいりん)の六観音という独自グループを形成しています。優しげな表情の『菩薩半跏像』(中宮寺)や智恵の文殊、象に乗った普賢、地蔵などの菩薩は、いずれも人々に身近な存在でとても人気があります。
これを知っておけば安心! 仏像専門用語・簡単解説「菩薩編」
瓔珞(ようらく) ネックレスのこと。古代インドの貴族の装いは、主に菩薩にみられる特徴で、二の腕の「臂釧(ひせん)」、手首の「腕釧(わんせん)」、「胸飾り」などをつける。如来(にょらい)でも大日(だいにち)如来は菩薩同様の装飾品を身につけ、格の違いが表されている。
持物(じもつ) 手に持っているものを見ると仏の役割がわかる。十一面観音は仏の象徴である蓮の花をさした「水瓶(すいびょう)」を持つ。薬師如来は「薬壺(やっこ)」、明王は「武器」が代表例で、千手観音は種々様々。
化仏(けぶつ) 仏が姿を変えて現れた像や面。十一面観音の頭上には全方向を見守る11の化仏があり、頭上正面には阿弥陀如来の化身であることを表す小さい像。そのほか、正面に菩薩面が3面、左頭部には怒りを表した「瞋怒(しんぬ)面」が3面、右頭部に人々を励ます「狗牙上出(くげじょうしゅつ)面」が3面。後頭部に「暴悪大笑(ぼうあくだいしょう)面」が1面あり、それぞれが人々をなだめ、怒り、励ましている。
天衣(てんね) 菩薩の着衣で特徴的なのが、天衣という長い細めの布をショールのように巻いてたらしていること。上半身は如来や明王らと同じように、裸身に条帛という布を斜めにかけている。
裙(くん) 菩薩の下半身を巻きスカートのようにおおった大判の布で、裳(も)とも呼ばれる。ドレープを取った細かい波状の衣文の美しさは、菩薩の仏像の見どころのひとつ。
台座(だいざ) 仏像が乗っているもので、如来や菩薩に多いのが蓮の花をかたどった「蓮華(れんげ)座」。
ぜひ拝したい! 国宝の菩薩像
聖林寺の国宝『十一面観音菩薩立像』
木心乾漆像、漆箔 8世紀後半 像高209.1㎝ 聖林寺(しょうりんじ 奈良県桜井市)
詳細は以下サイトへ。
https://www.shorinji-temple.jp/
秘仏であった本像は明治20(1887)年、アーネスト・フェノロサによって開扉され、その美しい姿に居合わせた人々は驚嘆したという逸話が残っている。昭和26(1951)年に第1回の国宝に指定された像は全体のバランスがよく、顔立ちや指先のしなやかさは、乾漆という技法ならでは。天平(てんぴょう)時代につくられた十一面観音立像の傑作は、人気においても最高峰。
中宮寺の国宝『菩薩半跏像(伝如意輪観世音菩薩)』
木造、彩色 7世紀後半 像高167.6㎝ 中宮寺(ちゅうぐうじ 奈良県斑鳩町)
詳細は以下サイトへ。
http://www.chuguji.jp/
優しく人々を見守る菩薩のなかでも最高傑作と称されるのが、中宮寺の本尊である本像。飛鳥時代の仏像は平面的な表現が特徴だが、顔も体も丸みを帯びて美しい本像は、古典的・東洋的な微笑を意味するアルカイック・スマイルの典型として、美術史における世界的評価も高い。右手の指先を頰にあてながら、いかにして人々を救えばよいかを考えている表情は、清らかな気品と慈愛に満ち溢れている。
構成/山本 毅
※本記事は雑誌『和樂(2019年4・5月号)』の記事を再編集しました。