『源氏物語』の成立
『源氏物語』が書かれた経緯の全てがわかっているわけではありません。しかし『源氏物語』誕生の背景には、並外れた才能の作者、その作者を生んだ一条朝の文化的基盤があったことがわかります。
誰が書いた?
『源氏物語』の作者は、紫式部(むらさきしきぶ)と呼ばれる平安時代中期の女性です。“紫”は、『源氏物語』の主人公・光源氏最愛の妻「紫の上」から。“式部”は父・藤原為時(ためとき)の官職「式部丞」にちなんでいます。
生年は970年(天禄元年)~978年(天元元年)まで諸説あり、没年も不確実ではあるものの、1019年(寛仁3年)、47歳頃までは生きていたと推測されています。
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実は『源氏物語』作者は苦労人だった?
紫式部の家族
父は藤原為時。母は藤原為信(ためのぶ)の娘。『紫式部日記』や家集にも母に関する記載は見られないことから、紫式部の幼いころに亡くなったのではないかと考えられます。同腹のきょうだいには、早くに亡くなった姉と、弟の藤原惟規(のぶのり)がいます。異母きょうだいとして、弟2人、妹1人がいたようです。
藤原宣孝(のぶたか)と結婚し、娘(大弐三位/藤原賢子)が一人生まれました。
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いつ書いた?
1001年(長保3年)、紫式部の夫・藤原宣孝が死去。哀しみや将来の不安を抱えた紫式部は、物語をつくり友人と見せ合うことを慰めとしていたようです。そんな生活の中で書いた『源氏物語』がたちまち世間で評判になり、1005年(寛弘2年)、もしくはその翌年、一条天皇の中宮・彰子のもとに出仕をはじめます。彰子の父・藤原道長は、彰子のために才能ある女性を集めており、紫式部もその一人でした。
宮仕えするまでの間に『源氏物語』がどこまで書かれていたかははっきりしないものの、『源氏物語』には次第に道長の栄華生活が反映されていきます。
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何がスゴイの?
10世紀末~11世紀初頭の一条天皇の御代は、摂関政治の最盛期。華やかな後宮が営まれ、王朝文化も最高潮を迎えますが、当時、物語は女性や子どもの読むものとされていました。ところが一条天皇は『源氏物語』を読んで「この人は日本紀をこそ読みたるべけれ。まことに才(ざえ)あるべし(紫式部は『日本書紀』をはじめとする歴史書を読んでいるのだろう、たいそう学識があるようだ)」と感想をもらしたといいます。
王朝文化の頂点に立つ時の天皇が、いわゆるサブカル的なジャンルだった「物語」を読んで「才あるべし」と述べる。そのエピソードだけでも『源氏物語』のすごさがわかるはずです。
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どうして『源氏物語』は広まった?
一人の女性が書いた物語が、なぜ現代まで読み継がれているのでしょう? その背景には時の権力者で彰子の父である、藤原道長の存在がありました。
一条天皇が『源氏物語』を褒めていることを知った道長は、紫式部のパトロンとなり、当時高価であった膨大な紙を提供します。そして中宮彰子の女房(貴人の侍女)として紫式部を仕えさせ、執筆中の『源氏物語』を常に彰子の手元に置くようにしました。つまり、彰子に会えば、いつも『源氏物語』の最新作を読むことができるようにして、一条天皇を頻繁に彰子に会わせるよう仕向けたのでしょう。
このように、紫式部には壮大な物語を書き続けるためのバックアップ体制がありました。また、コピー機のなかった時代は、物語を高価な紙に書写するだけでも大変なエネルギーがかかったので、道長というパトロンがいなければ現代まで読み継がれることもなかったかもしれません。
『源氏物語』どんな話?
全54帖の長編小説『源氏物語』ではどんなドラマが繰り広げられているのでしょうか。
ざっくりあらすじ
『源氏物語』は、主人公・光源氏の生まれる前からストーリーが始まる。母・桐壺更衣は深く帝に愛されたものの、源氏を産んでまもなく死去。この世のものとも思えぬ美貌と才能をもった光源氏は、多くの女性と関係をもちながら、政治家としての権勢を極めていく。
物語の後半は光源氏亡きあとの世界が描かれ、光源氏の息子や孫が物語を繰り広げていく。
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『源氏物語』は三部構成
一般的に『源氏物語』は三部に分けられます。
一部 『桐壺』~『藤裏葉』:光源氏誕生から、栄華を極める日々まで
二部 『若菜上』~『幻』:内親王・女三宮を正妻に迎え、最愛の妻・紫の上との別れまで
三部 『匂兵部卿』~『夢浮橋』:「宇治十帖」と呼ばれる、光源氏亡きあとの世界
『源氏物語』登場人物
物語が長い分、老若男女たくさんの人物が登場します。
主人公 光源氏
稀代のイケメンとして今なお人気の光源氏。詳しいプロフィールや光源氏の妻は、こちらの記事で紹介しています!
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そのほかの登場人物
光源氏をとりまくのは、妻や恋人、ライバルの男性、子どもたちなどなど。登場人物についてはこちらの記事でご紹介しています!
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おすすめ書籍・現代語訳・漫画
『源氏物語』を気軽に楽しめるマンガから、現代語訳、原文と注釈までじっくり読めるおすすめの書籍をご紹介します。
漫画
『源氏物語』の漫画といえばやっぱりコレ!! なかなかの長編漫画ですが、源氏物語の世界にどっぷり浸れるロングセラー作品です。
・大和和紀
源氏物語 あさきゆめみし 完全版(1) (Kissコミックス)
『源氏物語』は現代のオタ活? とにかく面白い! 気軽に平安時代・源氏物語の世界の扉を開けるならこちらがおすすめ。
・D・キッサン
神作家・紫式部のありえない日々: 1
現代語訳
『源氏物語』は、たくさんの作家によって現代語訳されています。まったくの直訳ではなく、作家の解釈や個性が反映されているので、好きな作家の作品から読んでみるといいかもしれません。Kindle版で無料で読めるものもあります。
・与謝野 晶子
与謝野晶子の源氏物語 上 光源氏の栄華 (角川ソフィア文庫)
・谷崎 潤一郎
潤一郎訳源氏物語 完全版
・瀬戸内 寂聴
源氏物語 巻一 (講談社文庫)
・三田村 雅子
NHK「100分de名著」ブックス 紫式部 源氏物語
・林 真理子
六条御息所 源氏がたり 上 林真理子の源氏物語シリーズ (小学館文庫)
原文
原文・現代語訳・注釈が1ページにまとまっているので、原文を読むなら『新編日本古典文学全集』シリーズがオススメです!
新編日本古典文学全集 (20) 源氏物語 (1)
参考書籍
新編日本古典文学全集『源氏物語』小学館
新編日本古典文学全集『紫式部日記』小学館
『日本大百科全書』