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Fashion&きもの

2023.08.21

一流メゾンを渡り歩いた日本人デザイナー、ミチノヤス氏。バッグで表現する“日本の美”

イヴ・サンローラン、デルヴォー、バレンシアガ、ジバンシィ、ソニア・リキエル…彼がデザインを提供してきた数々のハイブランドが、彼のバッグデザイナーとしての能力の高さと審美眼を物語ります。そんな経験を活かし、10年前に自身のバッグブランド「MICHINO(ミチノ)」をパリで立ち上げたのは、ミチノ ヤスさん。先日、パリのオペラ座近くにショールームを開いた、今、注目すべきデザイナーです。

ミチノ ヤスさん

日本で生まれてすぐに、父の仕事の関係で、中国や香港、アメリカを転々とし、大学卒業後は、自分の意志でパリに来ました。人生の大半を海外で過ごしてきた国際人なのに、人当たりの印象は、とても日本的。様々な国を経験し、外から日本を見続けてきたからこそ、日本文化への興味や、関心が高まったといいます。

モノクロから色溢れる世界へと衝撃の原体験

ミチノのショールームの向かいは高級ホテル「ル・グラン」という立地

――ファッションを志そうと思ったきっかけは何ですか?

ミチノ:ファッションに興味を持ち始めたのは、中国に住んでいた幼少期。当時の中国は、まだ人々がカーキ、紺、茶の人民服に身を包んでいた80年代でした。そんな中、北京で開かれた、イヴ・サンローランの色鮮やかな展覧会は強烈な印象として記憶に残っています。その後、8歳の頃、両親と共に旅行したパリで、煌めく町並みに足を踏み入れたときには、白黒テレビがカラーになったような衝撃を受けました。当時の北京とパリのコントラストが凄かったんですよね。そこから、いつかパリでデザインをする、という夢を抱き始めました。
アメリカの大学を卒業後、ニューヨークの郵便局から送った6箱のダンボールで、始めたフランス生活。パリの美術系大学を卒業して、初めて就労ビザを出してくれたのがイヴ・サンローランだったのは何かのご縁ですね。

8歳の頃に旅行で訪れたパリで

デルヴォー時代の作品

デルヴォー時代のスケッチ

日本人であることの強み

――多くの一流ブランドからの仕事の依頼がくるのは、ミチノさんのデザインに定評があるからだと思いますが、ご自身の強みは何だと思いますか?

ミチノ:日本人であるということが、ひとつ言えるのではないでしょうか。日本人のデザイナーは、自分自身をブランドのデザインに強く反映させたいと思うよりも、そのブランドを尊重するデザインをしたいと考える人が多いような気がします。ブランド毎の課題に対応していく姿勢は、一緒に働くブランドへのリスペクトですね。

実は一般的に、自身のブランドを持っているデザイナーへのデザイン依頼は少ないものです。なぜなら、自分のブランドに良いアイデアを入れたくなってしまい、依頼主であるブランドへの提案クオリティが安定しないことがあるからです。その点、私は「ミチノ」で自分のワガママを実現しているので、依頼主へは期待されるものをご提案できます、とお伝えしています。現在も契約上、公には言えないのですが、とあるメゾンのバッグの新作を手掛けています。

遊び心を詰め込んだ初期のコレクション「SALUT(サリュ)」

「ミチノ」というブランドで表現したいこと

――様々なブランドからの要望に柔軟に対応していくデザインスタイルをお持ちですが、ご自身のブランド「ミチノ」で表現したい、自分らしいスタイルとは何でしょうか?

ミチノ:そこは、本当に長い間、悩んできました。自分が何を表現したいのかハッキリわかっているデザイナーもいますが、色々やっているうちに、自分自身が埋もれてしまうデザイナーもいます。ブランドを立ち上げた頃は、様々な試みをしました。今は、「ミチノ」を続けてきて10年が経ち、自分の感覚に自信を持てるようになりました。どれだけ売れたかというよりも、自分が作り上げたときの満足感を、どんどんレベルアップさせていければ良いなと。

柔らかな曲線が魅力的な「ルテス」のスケッチ

今や「ミチノ」の主力商品となった「LUTECE(ルテス)」は、産みの苦しみを経て誕生しました。自分のブランドでありながらも、お客様やバイヤーさんたちと多く関わるプロジェクトだったので、みんな、それぞれの立場での考えがあり、売れるにはこうした方が良いという意見があったり、日々、闘いでした。
クリエーションとは、いかに他の人の意見を聞きながら自分の意思を大切にするか、そこから何を取り入れるのかのバランスを考えるものだと思っていますが、このような思考プロセスを経て出来上がったバッグでした。

完成したものが、大切な人に贈りたいものになっているか、が自分の中でひとつの基準です。家族や友人など、身近な人に対して誇れるものかどうか、そんな視点を持つようにしています。デザインをしている自分自身も、「ミチノ」のバッグを手にしてくださる方もハッピーになれる、ということが大事ですね。まだあまり知られていない「ミチノ」を気に入って買ってくださる方は、たくさんのブランドの中から見つけてくれただけで、もう尊敬です!(笑)

主力商品の「ルテス」

日本の美を世界中の人に知ってもらいたい

――インスピレーションは何から得ていますか? 旅行がお好きだとおっしゃっていましたが、旅の経験などから着想することはありますか?

ミチノ:空気とエネルギー、そしてハッピーな状況が、発想の源になっています。見たものが直接デザインに繋がることはありません。少し前に、佐賀県に有田焼を見に行き、伊万里焼の柿右衛門の美しい赤や緑、青の色彩の組み合わせに感銘を受けました。ですが、すぐに製品に表現するというよりも、数年後、自分の中で蓄積されて、何かの形でクリエーションに現れるかもしれません。日本文化への誇りはもちろんのこと、日本の自然が持つ美しさも大好きで、フランスのものとはまた違った彩りを感じています。

ミチノさんが魅力を感じる日本の自然の色

――そんなミチノさんの経験が蓄積された「ミチノ」のバッグのデザインのポイントを教えてください。

ミチノ:まずは、バッグを持った瞬間の心地よい感覚を大事にしています。また、パッと見はシンプルでも、よく見たらきちんと考えられている、密かなエレガンスを意識していますね。例えば、肩紐とバッグを繋ぐ金具部分はT字型になっていて、穴を通すところで留まるミニマルな機構です。また、中心部の留め具も片手で開閉できて機能的な仕上がりです。

T字型の肩紐とバッグを繋ぐ金具部分

片手で開閉できる留め具

革に動きを出すことも、こだわっているポイントです。ナチュラルに揺らぐ曲線は、上質な柔らかい革でしか表現できません。逆に高品質な革の性質を活かしたデザインとも言えます。素材を大事にしたシンプルな味付けは、和食みたいですよね(笑)

しなやかな革の表情が魅力の「ODEON(オデオン)」

おかげさまで、「ミチノ」のバッグは、北米をはじめ、日本、欧州と、幅広い国で受け入れられています。日本の美は、日本人が生まれ持った繊細な感覚、色使いや形のバランスによって生み出されます。以前は、そういったものから逃げていた時期もありました。特に日本語は、自分にとって漢字テストなど勉強するもの。でも、自分が作った好きなものを語れる言語となってからは変わりました。
日本文化は本当に世界に誇れるものなので、ぜひたくさんの人にその魅力を知ってもらいたいですね。自分がデザインしたバッグがその一翼を担えれば嬉しいです。

MICHINO PARIS 基本情報

店舗名:MICHINO PARIS SHOWROOM
住所:5 rue Scribe, Paris 75009, France
営業時間:完全予約制
公式webサイト&E-Shop:https://www.michinoparis.com/

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ウエマツチヱ

フランスで日本人の夫と共に企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の2児を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速いです。 日々の仏蘭西生活研究ネタはコチラ https://note.com/uemma
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