最近月を見ていますか? リモートワークが増えて、夜間の外食も難しい。となると、ぼんやりと月を眺める機会は減ってしまったように感じます。
もともと月は、日本人と非常になじみ深いもの。月ひとつとっても、三日月、望月、有明月、十六夜月、おぼろ月など、姿かたちや色、季節、はっきり見えるかどうかなど、その状態に応じてさまざまな呼び名がつけられています。また、和歌や俳句、最近ではあいみょんの『満月の夜なら』など、あらゆる詩歌のモチーフとされてきました。
そんな日本人の心をふるわせてやまない月が、1年で最も美く輝く「中秋の名月」。今では「お月見」として楽しまれているイベントですが、どんなルーツをもっているのでしょうか。
お月見はいつ?
1年で最も月が明るく美しいのは、旧暦の8月15日。この日の満月は「中秋の名月」と呼ばれ、美しい月を鑑賞する「お月見」という文化が日本で根付きました。太陽暦を採用している現代はその年ごとにお月見の日は異なりますが、旧暦(太陽太陰暦)は月の満ち欠けを基準として日付を決めるため、毎年同じ日が中秋の名月となります。
ちなみに、2021年の中秋の名月は9月21日(火)です。
お月見のルーツ
中秋の名月を鑑賞する風習は、古くは中国唐代の記録に見られます。それが平安時代頃に貴族階級に広まったのがお月見のルーツと考えられ、紫式部の書いた平安時代の物語『源氏物語』にも「月の宴(えん)」という、お酒や音楽を楽しむパーティーがあったことが記されています。クリスマスやハロウィンのように、日本人が外国の風習を取り入れ、みんなでワイワイ楽しむイベントとして定着させてしまうのは、今も昔も変わらないのが面白い!
貴族たちの「月の宴」の風習は、次第に庶民にも広まっていきます。しかしそれは単に月を愛でるのではなく、五穀豊穣を祝い、豊作を祈る意味合いが強く「十五夜祭り」として発達していきました。江戸時代には庶民も舟に乗って月を鑑賞するなど、季節のイベントとして楽しんでいたようです。
▼江戸時代のお月見の記事はこちら!
飲んで騒ぐフェスから粋な舟遊びまで、バラエティに富んだ江戸のお月見事情【長月候】
知ってた?お月見にちなんだ食べ物・スイーツ・お酒
お月見と言えば月見団子。でも、実は他にもお月見にちなんだスイーツがあるのを知っていましたか?
「もなか」のルーツは中秋の名月?
そもそも「中秋の名月」は、秋(旧暦7・8・9月)の真ん中(最中、もなか)にあたることから「中秋」と呼ばれています。もうお気づきですね。今私たちが「もなか」と呼んでいるお菓子のルーツはここにあり! 拾遺和歌集(しゅういわかしゅう)の撰者で三十六歌仙の一人、源順(みなもとのしたごう、平安時代の歌人)が中秋の名月を詠んだ和歌が起源のひとつと言われています。
池の面に照る月なみを数ふれば今宵ぞ秋の最中(もなか)なりける
さざ波立つ水面に映る月が、今晩はひときわ美しい。そう、今宵は中秋の名月なのだった。
宮中の宴でこの歌を詠んだ時に出されたお菓子が、薄い丸型のもので中秋の名月に似ていたことから「最中の月」と呼ばれるようになったのだとか。このほかにも、江戸時代の遊郭でつくられたお菓子を十五夜の月になぞらえて「最中の月」と呼んだからだなどとも言われています。
今でも「月見バーガー」や「月見そば」など、まん丸の食べ物を満月に例えてしまうところに、日本人のお月様愛を感じます。
地域によって異なる「月見団子」
お月見と言えばやっぱり月見団子! その作り方や供え方は、地域によって異なります。形は月に似せたまん丸が一般的ですが、楕円形に餡をまいたもの、カラフルなものなど、その形や色はさまざま。お団子の数も、十五夜にちなんで15個・1年の月の数にあわせて12個など、地域の特色が見られます。
国民的アニメ『サザエさん』では、プレーンな団子よりお汁粉が食べたいということで、お椀によそったお汁粉が供えられていました(笑)。あなたのご家庭・地域はどんな月見団子ですか?
月見酒
月見酒とは、その名の通り月を見ながら飲むお酒のこと。美しい月夜に飲むお酒はいつもの何倍もおいしそうですね。
こちらは「月の岬」と呼ばれた江戸の名所を描いた、歌川広重の作品。明治35年1月25日に出版された『風俗画報』によると、月の岬は伊皿子(いさらご、現代の品川あたり)ではないか、とのこと。散らかった酒肴に、障子に透けて見える遊女の姿。月明かりに照らされた海に浮かぶ舟は、月見客でしょうか。
はっきり人物を描かないことで、月夜の美しさが際立つ一枚です。
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月を詠んだ歌
姿かたちを変えながら、ほのかに闇夜を照らす月。夏目漱石が”I love you”を「今夜は月がきれいですね」と訳したと言われるように、月は私たち日本人の心をゆさぶる存在です。昔の日本人が、月にどのような想いを託していたのか。それは和歌や俳句を読むことで伺い知ることができます。
和歌
まずは百人一首に詠まれた秋の月の歌から。
月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど 大江千里
月を見ていると、あれもこれも悲しくなってくる。私一人に訪れる秋ではないけれど
秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ 左京大夫顕輔
秋風に吹かれ流れる雲の隙間から、もれ出る月の光。その澄み切った美しさといったら……
同じ秋の月を詠んでいても、一方は物悲しい気持ちに、一方はその美しさに感激しています。月は見る人の心を映し出しているのかもしれません。
ちょっとセクジーな恋の歌
月草に衣はすらむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも 読み人しらず
月草の汁で衣を染めましょう。朝露に濡れるとすぐに色が褪せてしまうのですが、それでも私はかまわないのです。月草のように心変わりしやすいあなたでも、愛しています。
「月」そのものの歌ではありませんが、秋に咲く月草(現代の露草)を詠んだ恋の歌。「朝露に濡れる」というのは、男女が一晩過ごすこと。ん? それって……! 割と直球でエロティックな歌ですね。
忍ぶれど恋しきときはあしひきの山より月の出でてこそくれ 紀貫之
我慢できないほどあなたが恋しいときは、山から月が出てくるように、私もあなたのもとを訪れるのです。
女性のもとを訪れた時に詠んだのでしょうか。情景と心情が一致した「さすが貫之!」とうならせる、美しい恋の歌です。
平安時代、恋愛における月は別れを告げるものだったり、愛する人と一緒に見るものだったり、素肌を明るく照らす官能を呼び覚ますものだったりしました。夏目漱石の「今夜は月がきれいですね」も、このあたりの平安時代の感性とも結びついているのでは、と思います。
俳句
俳句は、小林一茶と松尾芭蕉の歌をご紹介しましょう。訳は必要ないですね。
名月をとつてくれろと泣く子かな 小林一茶
名月や池をめぐりて夜もすがら 松尾芭蕉
人と人を繋ぐ月
かつて、大人も子どもも夢中になった月。今は月を眺めることは少なくなってしまったかもしれません。でも、月は世界にたったひとつ。遠く離れたあの人や、平安時代の歌人と同じ月を眺めていると思うと、なんだかとてもロマンチックじゃありませんか? 時や場所を超えて、人と人を繋ぐ。月はそんな存在です。新型コロナウイルス禍で大切な人に会えなくなってしまった今、改めて「月を見る」という風習を見直したいですね。
新しいお月見のメインカットは
昨年から続いてイラストレーター佐久間茜さん(@a_skm)の作品。
離れていても同じ月見をみて同じ体験をしたり乾杯したいね、という気持ちをかいてもらいました☺️🌕— 新しいお月見 (@new_otsukimi) August 10, 2021
「離れていても同じ月見をみて同じ体験をしたり乾杯したいね」 まさに昔の日本人が大切にしてきた感性!
【終了】オンラインお月見会登壇します!
時代にあったお月見スタイルを模索・提案する「新しいお月見」主催のオンラインお月見会が開催されます!
和樂webからは編集長とスタッフが登壇予定。「離れていても同じ月をみる」平安貴族のように、リモートでの出会い、お月見、食事を楽しみませんか?
日時:9/21(火)20:00〜21:00
※こちらのイベントは終了しました
参考文献
日本大百科全書(ニッポニカ)
世界大百科事典
『絵でつづるやさしい暮らし歳時記』新谷尚紀
最中(もなか)の歴史と名前の由来、開運堂の「あづみの風情」|開運堂ブログ