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Fashion&きもの

2024.11.20

祖母の着物姿の優しさと美しさ。着物家・伊藤仁美の【和を装い、日々を纏う。】5

着物家として活動する伊藤仁美さん。京都の禅寺、両足院に生まれ育ち、現在は着物を通して日本の美意識の価値を紐解き、未来へとつないでいくことをテーマに講演やイベント出演など幅広く活躍しています。この連載ではこれまでの彼女の歩みや日々纏う着物の魅力について語って頂きます。

前回までの連載はこちらからご覧ください

祖母は何を感じ、どんな哲学の中で生きてきたのか。

私が着物の魅力に引き込まれた大きなきっかけの一つとして祖母の存在があります。
こざっぱりとしたショートカットに、いつも軽やかに着物を着ていた祖母。そんな祖母から譲り受けた着物を纏うことは、私にとって時空を超えてコミニュケーションできる大切なひとときでもあります。
なぜなら祖母は生前、どちらかというとシャイな人だったこともあり、多くの言葉を交わす機会がなかったからです。

何を美しいと感じ、どんなことに心を揺り動かされ、どんな哲学の中で生きてきたのか。

そんなことを知りたくなっては、祖母の着物を箪笥(たんす)から幾度となく引っ張り出したものです。何度も繕われている裾からは、長い間大切に着ていたことがわかり、いつも黒や紺などの渋い色を好んで着ていたこと、お花柄などはほとんどなく柄はモダンな幾何学模様などが多く趣味が一貫していることから、凛とした芯の強さを感じます。

いまでも着物から祖母の人となりをたくさん感じとることができるのです。

私の記憶の中の祖母は、細い体にいつも大島紬を颯爽と着こなしていました。腰紐は使い込んでいて少しクタっとしていたけど、子供心にそれが妙にかっこいいと感じていました。さらに帯まくらは、タオルをくるくる巻いたものを、使わなくなったストッキングで包んで、それを自由自在に操り帯をこなれた手つきで結んでいました。その光景は手品さながらで、あっという間にできてしまうものだから必死に目を凝らして見ていたものです。

時間がある時は、お気に入りの着物をたとう紙の紐を解いては見せてくれました。箪笥に長らく入っていた着物のあの匂いを、今でも目を閉じるとすぐに思い出します。そして、着物と一緒にしまってあった祖母の思い出も、もっともっと聞いておけばよかったと今でも思います。

離れて暮らしていた言葉数の少なかった祖母との時間は、いま思えば数えるほどしかなかった。だから今でも、祖母の着物を纏うたび祖母と会話をしてるようでなんだか少し恥ずかしいけど嬉しく、それでいてあったかいのです。

「あなたの着物姿の優しさと美しさを」

こんなふうにして祖母の着物を着用しては、懐かしい記憶を辿っていた私ですが、ある日母から手渡された一枚の写真を見た瞬間にそれまで祖母の気づかなかった奥深い愛に触れることになります。

それは祖母が大島紬を着て、幼い私を抱っこしてくれている写真。よく見ると、長襦袢の襟は綺麗に整えられてるにも関わらず、着物の胸元がふわっと浮いて見えるのは、他でもない幼い私が、引っ張って崩してしまったから。
それでもそんな私を祖母は叱りもせず、愛おしそうに見つめながら深い愛で包んでくれている様子が、その写真からは感じられます。

「あなたのように颯爽とカッコよく着れていないかもしれないけど、あなたの着物姿が優しかったこと、美しかったことをずっとずっと忘れません」。

これからも祖母の着物を纏うたびに、そう伝え続けたいと思います。

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伊藤仁美

着物家/株式会社enso代表  「日本の美意識と未来へ」を掲げ、着物を通して日本の美意識の価値を紐解き、未来へとつないでいく事をテーマに『enso』を主宰。 祇園の禅寺に生まれ、和の空間に囲まれて育つ。祖父の法要で色とりどりの衣を纏った僧侶がお経を唱える美しい姿に出逢い、着物の世界へ進む。着付け師範、一般着付けから芸舞妓の技術まで習得。 講演や連載、イベント出演他、国内外の企業やブランド、アーティストとのコラボレーションや監修も多数、海外メディアにも掲載。着物の研究を通して着物の可能性を追求し続けるなか、自身の理想を形にすべく、オリジナルプロダクト「ensowabi」を立ち上げる。
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