いよいよ大河ドラマ『どうする家康』がフィナーレを迎えます。誰もが知っているはずの徳川家康ではない、新たな一面を見せてくれたり、「海老すくい」でつながる(笑)徳川家臣団という強力な武将集団などが描かれたり、今までとはちょっと違う面白みを見いだせた今回の大河。そこで和樂webでは、登場人物の記事を書いたトッキー&くろりんが、この1年のドラマを振り返って、印象に残ったこと、感動したことなどを総括しました。みなさんの目にはどんな名場面が浮かびますか。
よく知らなかった徳川家臣たちがヒーローに。彼らの成長が見ごたえあり
和樂web編集部:まずは、一躍有名になった四天王についてですが、いかがでしたか。
トッキー:この四天王に、若い3人のイケメン俳優、山田裕貴、杉野遥亮、板垣李光人をキャスティングしたNHKって、すごいチャレンジをしたなと思いました。最初は大丈夫? と思ったんですが、松重豊や松山ケンイチといった大河ドラマ経験者が牽引したこともあって、若手の伸びしろがすごかったですね。
くろりん:四天王それぞれのキャラクターが立っていたのも良かったですよね。杉野遥亮が演じた榊原康政(さかきばらやすまさ)なんて、最初出てきた時、自分で作った甲冑着て出てきましたもんね。三河の田舎侍の子が、立派な武具もなく、貧乏だったんだけど、気持ちだけはあって、武士として一旗上げようとする。主役ではない家臣の成長過程が、ちゃんと描かれていたのも、今までの大河にない面白さだったような気がします。
徳川四天王・榊原康政とは?生涯かけて家康を信奉した男を3分で解説
トッキー:先日放送された、晩年の本多忠勝(ほんだただかつ)のところに榊原康政が訪ねたシーンもすごく良い終わり方だったな~と思いました。最初はぶつかっていた二人が、盟友となって、昔を振り返りながら語らう姿にしみじみしました。本多忠勝もただ強いだけじゃなく、弱さをもった人間として描かれていたのが新しいなと。熱くて、人情家のところや、娘に弱いところもあって、山田裕貴自身の人柄が出たのかもしれないけど、ハートがある人だな~と思わせてくれました。
徳川四天王・本多忠勝とは?「家康に過ぎたるもの」と言われた戦国最強の武将
くろりん:板垣李光人の井伊直政(いいなおまさ)も、ただのイケメンというだけでなく、頭もいいし、度胸もあるし、良く物事を見ているんだけど、一筋縄ではいかないこじらせキャラでもあり、そこをうまく演じていましたね。この役で役者としての幅が広がったように思います。
トッキー:彼はインタビューで、忠勝が熱い人だったから、自分は氷みたいな冷たい感じで演じたって答えていましたけど、まさに対照的な二人でしたね。家臣たち、それぞれの個性が強くて、ぶつかり合うストーリーが面白く描かれていたし、それが殿を守る時にはパッと一つになる。その一体感のある描かれ方も良かったなと思いました。
徳川四天王・井伊直政とは? 出世街道まっしぐらのイケメン武将を解説
くろりん:家臣団をまとめていた大森南朋演じた酒井忠次(さかいただつぐ)と松重豊の石川数正(いしかわかずまさ)の演技もそうですが、家臣としての安定感もあって、まさに両輪として存在していましたよね。途中で、数正は出奔しちゃいましたけど。家康が大成していったのは、この二人の力があったんだということがよくわかりました。
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ヴィジュアル的にも大きな変化を見せた今年の大河ドラマ
和樂web編集部:若い武士の様相が、ヴィジュアル系バンドを彷彿させる部分が興味深かったです(笑)。本多忠勝の黒い大きな兜や顔下半分覆うマスクのような面頬(めんぼお)※1など、見た目からかっこよかったですよね。落ち武者ヘアでさえもかっこよく見えました。
くろりん:月代(さかやき)※2になってもイケメンに見えるのはすごいな~と思いました(笑)。以前、甲冑師の人に取材した時、有名な武将たちは、オーダーメイドで甲冑を作っているから、好みや個性がはっきり出ると聞きました。そうやって見てみると、みなそれぞれこだわりがありますよね。
トッキー:甲冑がカッコいいと、馬上のヴィジュアルもきれいに見えました。敵だけど、武田勝頼(たけだかつより)を演じた眞栄田郷敦の甲冑姿は、かっこよすぎましたよね。戦いのシーンもかつての大河ドラマは、土埃が舞って、むさ苦しかったんだけど、今回の大河は絵巻ものを見ているようで美しかった。そこも若い人に人気があった理由ではないかなと思いました。
和樂web編集部:そうですね。合戦にもCGがたくさん使われていましたが、それが自然で、違和感がなく見られました。鳥瞰図のように上から見たような感覚で合戦が見られたり、そういう点も面白かったです。
新しい徳川家康像の誕生。その変遷ぶりも見事
トッキー:松潤の家康はどうでした?
くろりん:最初はやはり今までの家康のイメージと違い過ぎて、なかなか受け入れられなかったんですが、晩年の家康がすごく良くて。弱い家康から天下人になる過程をうまく表現できていたなと。
トッキー:同感です。老けてからどんどん良くなっていきましたね。私、家康ってこんなに孤独で、こんなに苦労して天下を取った人だなんて知らなかったんです。その苦悩をうまく演じていたなと思いました。正直、こんなことなら天下取りたくないわ、っていうぐらいひどい人生じゃない?(笑)。プライベートでもいろいろ葛藤があったのかもしれないけれど、それが演技に厚みを持たせたというか、まさに狸、化けましたね(笑)。
くろりん:NHKの「あさイチ」にゲストに出た時にも語っていたけれど、自分の周りで起きていることが、ドラマにどう影響するかを考えていたそうで、本当に悩んでいたんだと思います。その部分が家康の苦悩とすごく重なった気がします。だから、みんな温かい目で見守っていくのが大切だなと思いました(笑)。
トッキー:私は大河ファンなので、ずっとその立ち位置で見ていますよ! 昔の大河と比べる人がいて、確かに時代劇俳優がたくさん出ていたり、キャリアのある名優の所作は完璧だったけれど、子ども心に覚えているのは、役者の顔のアップが多かったこと。撮影技術が限られていたからか、顔の迫力で見せる顔芸っていうの? チャンバラも寄りが多くて、引きで全体を見せながら、絵づらがきれいというのは今の方が断然良いです。今回の大河を見て改めて、大河ドラマって芸を受け継いでいく伝統芸能のようなものだなと思いました。
主役だけでなく、脇役が光った今回のドラマ
和樂web編集部:徳川家臣団は個性的なキャラクターの人が多くて、それぞれの推しができるみたいな感じでしたね。
くろりん:今まであまり描かれたことのなかった徳川十六神将(とくがわじゅうろくしんしょう)が良かったです。ハナコの岡部大が演じた平岩新吉(ひらいわしんきち)や、小手伸也が演じた大久保忠世(おおくぼただよ)も、全く知らなかった人物なんだけど(笑)。中でも、私は鳥居元忠(とりいもとただ)に惹かれました。伏見城での最後の決戦のシーンが忘れられなくて。再婚した千代と二人が、豊臣軍に襲撃され、決死の覚悟で戦うシーンにぐっときちゃいました。それまでわりとおちゃらけた軽いイメージだったのに、徳川家を守ろうとする元忠と、その彼を守ろうとする妻・千代の姿に泣けました。
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トッキー:私はドラマが始まる前は、能狂言が好きなこともあって、野村萬斎に一番注目していたんです。品格のある今までにない今川義元(いまがわよしもと)を演じてくれそうで。でも、実際にドラマが始まったら、溝端淳平が演じた息子の今川氏真のダークホース的な部分に心をつかまれちゃいました。今までだったらちょっとしか出てこない人物なのに、今回、要所要所で重要なシーンに登場しましたよね。猛烈サラリーマンになりきれない悲哀、優秀な父親がいて、養子の弟分に抜かれて、好きな人は取られ、闇落ちしていくという現代にも置き換えられそうな役なんだけど、その演技が涙を誘いました。氏真には助演男優賞をあげたいぐらい(笑)。奥様との関係も素敵だったし。史実でも最後まで仲が良かったらしいです。隠居して和歌を嗜む落ち着いた感じにも好感が持てました。
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女性たちが光った大河。一人の女性の一生を描き切った
和樂web編集部:今回のドラマの注目点の一つに、女性の描き方がどれも本当に良かったように思います。特に印象に残っているのはどんな女性でしたか。
くろりん:女性が強く描かれていましたよね。瀬名も寧々も要所要所の大事な場面で、殿に助言したり、家臣たちの心も掴んで、内助の功というより、現代でいうとダメ社長を諫める敏腕キャリアウーマンみたいな感じでしたね。阿茶の局と家康の関係も、対等な部分があり、重要な交渉なども任せられていた。今までの戦国時代って、男性中心に描かれていて、女性は花を添える描かれ方が多かったけれど、今回は、意志があって、それぞれの想いも描いていて、共感する部分がたくさんありました。そこが古沢良太脚本の新しいところでもあるのかなと。
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トッキー:私は自分が記事を書いたというのもあるけど、瀬名と於愛の方が印象的でしたね。もともと女性って史料が少ない。於愛のような側室になるとさらに史料は少ないので、どうやって描くのかな? と思っていたら、家康の人生にすごく重要な人物として、奥行のある描き方をしていたなと思いました。
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くろりん:於愛の方の、「殿(家康)のことはお慕いしていたけれど、愛していなかった」というセリフはすごかったですね。
トッキー:於愛が、最初は笑えなかったというのは、脚本家の思い描いたイメージかもしれないですが、あながち間違っていなかったかなと。夫が戦死して、亡くなったばかりで、明るくはいられないですよね。子どもを抱えて、生活のために後添えになったわけだし。ただ、本来は、朗らかで明るい方で思いやりのある優しい方というのは史実通りなんです。だけど、どうやって最後を描くのかな~と思っていたら、家康と於愛の方が、めちゃくちゃ心から笑っている場面だったじゃないですか。あれに心射貫かれました。アドリブも入っていたらしく、本当に笑いあっているのを撮ったみたいなんですが、その於愛の方の笑顔が、忘れられなくて。その大らかさが息子の秀忠にも受け継がれていて。於愛が亡くなるところを見せないで、切なさを描いた良いシーンだったなと思います。それと茶々の登場はびっくりしませんでしたか? 度肝を抜かれました。
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くろりん:誰がやっても違和感が出ちゃったんでしょうけれど、まさか一人二役とは。あの描き方の違いも凄かったですね。後半の準主役でしたね。
トッキー:夢に出てきそうで、怖かったですよ。北川景子のお市はわかるんだけど、茶々には驚いた。ラスボス感満載で、後半の物語を盛り上げましたね。
それぞれの最期も切なく、心に残るシーンが多かった
くろりん:今回、残酷なシーンが少なく、切ないシーンが多かったように思います。だから女性とか親子でも見れたんじゃないかなと思いました。長篠城主・奥平信昌(おくだいらのぶまさ)の家臣だった鳥居強右衛門(とりいすねえもん)のエピソードも凄かったですよね。長篠合戦より、1回分まるっと強右衛門を描くというのもびっくりしましたが、あの回は出ている人がみんな良い人に見えて、磔にされた強右衛門にも、みな涙しましたよね。
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トッキー:心に残る人がありすぎて書ききれない(笑)。家康にいつも名前を間違えられていた家臣、夏目広次(なつめひろつぐ)も、泣かせましたよね~。キャスティングも絶妙で、間違えられそうな雰囲気で。
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くろりん:人間のつながりを細やかに描いていましたね。今までの往年の大河ファンにとっては、合戦のシーンが簡略されているのが不満だったようですが、夫婦愛の描き方も良かった。酒井忠次がもう戦にも出られないほど体力がなくなっているのに、甲冑を着て妻の腕の中で死ぬシーンは美しかった。
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トッキー:あと、私は石田三成の最後の処刑の場面は、絶対描くと思っていたんですよね。でもそこを描かないで、これも実際にあった話だったんですけど、家康と話すところをクローズアップして描いたのが、ものすごく新しいなと思って。あそこも名場面だったなと思います。三成は、頭脳派で、戦下手といわれていたけれども、「自分の中にも戦をしたいという気持ちがあった」というのをセリフとして語らせるのはすごいなと思う。今まではもっと悪く描かれていたでしょ。それは江戸時代に、家康を称えるために、三成のバッシングの書物が多かったということもあるんですよね。今回の描き方はすごく深いな~と思いました。
くろりん:なんか人間の心理をついていますよね。上に奉り上げられて、権力を得ちゃうと、人間がどんどん変わっていってしまう。三成もどんどん虚栄心というか、強い家康に嫉妬して、そういった感情が渦巻いていくのが投影されていましたね。
トッキー:三成の記事を書いていても思ったんですが、最近になっていろいろ史実が解明されて、家康と三成は直前まで、本当は仲が良かったとか。三成は、家康の息子に刀を贈っていただとか。でも、あそこまで描いたのは、これが初めてなんじゃないかな。史実もどんどん変わっているし、現代の私たちの心情もあって、決して奇をてらっているドラマではない気がしました。
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くろりん:関ヶ原の戦いも、天下分け目の戦いと言われてきたけど、本当はそんなことないんじゃないかなと。豊臣秀吉の家臣同志での戦いなわけだし、お互いの面子というか、威信をかけただけで、なんとなく今の時代にも通じるような派閥争いという気がしました。どっちについたらいいんだ!みたいな。半澤直樹か? と思っちゃっいました。
トッキー:本当、関ヶ原の戦いを見て、戦争の無意味さというか、やらなくても良い戦争だったんじゃないかと。そんな風に思えたのは、今回のドラマの新しさだと思います。今までって、戦争シーンを華やかに、クライマックスな場面として描いていたけど。19歳の小早川秀秋がどっちにつくか迷っていたせいで負けちゃったの? というぐらい何のための戦争?って感じですよね。なんか、組織でもありがちな話じゃない。その変の根回しとかも、すごくよく描いていたなと思います。
大河ドラマ『どうする家康』が残したもの
トッキー:松本潤がなんで家康だったんだろうと最初は思っていたけど、最後まで見て、その理由がわかった気がします。私たちがイメージしていた家康って、天下人となった家康のイメージなんですよね。でもあそこまで昇り詰めるのには、もの凄い忍耐を強いられた生涯で。そしてその弱い部分も含め、徳川家臣団が家康を守っていたんだなと。それがそのまま、みんなで大河初主役の松潤を支えようというのと重なって、今までにない大河ドラマになったなと思いました。
くろりん:群像劇としても良くできていたと思います。歴史って有名な人たちだけで語られちゃう、それこそ勝った人の論理で描かれちゃうことが多いけど、名もなき人や捨て身で殿を守る家臣たちの人生を知ると、また違った目で歴史を見ることができる気がしました。最後、回想シーンでたくさんの人が出てきたら、もう泣いちゃう。
トッキー:ドラマの中でも、一人ひとり消えていくと本当に寂しかった。それぞれに感情移入ができる、人間臭さがきちんと描かれていましたよね。
和樂web編集部:今までにない大河が楽しめた『どうする家康』の最後、松潤の家康はどうやって終わるのか。戦なき世をどうやって描くのか。そこを楽しみにして、最終回を迎えたいですね。
アイキャッチ画像:関ケ原合戦屏風絵(模本)江戸時代・天保7(1836)年 ColBase