今、世界中が日本美術の魅力に注目しています。大英博物館で開催された「北斎展」、パリっ子たちが大行列をつくった「若冲展」…どちらも大盛況のうちに幕を閉じました。もちろん日本国内でも日本美術は大人気。東京都美術館で開催中の「奇想の系譜展」は、連日多くの来場者が訪れています。
日本美術の魅力を体現した奇想の名画たち
全地球規模で巻き起こる日本美術ブーム、どうやらその秘密は江戸時代に次々と現れた奇想の絵師たちの存在にありそうです。今回は数多くある奇想の名画の中から20作を厳選し、描いた絵師ごとに解説。これを見れば、日本美術の異端児にしてライジングスター、「奇想」の魅力がわかります!
展覧会は大行列! 世界中で大人気の伊藤若冲
1「象と鯨図屏風」
北陸の旧家で発見された作品。鼻を高々と上げる象と、海上に胴を出して勢いよく潮を吹く鯨が一対で描かれています。まるで、海と陸の王者が挨拶をかわしているかのようです。
伊藤若冲「象と鯨図屏風」重要文化財 6曲1双 紙本墨画 寛政9(1797)年 各159.4×354.0cm MIHO MUSEUM
2「鶏図押絵貼屏風」
近年見出された、奇想のスター若冲作の新出の屏風。さまざまなポーズをとり、宙を舞い、尾羽の描写に勢いのある雌雄の鶏が左右12扇に描かれています。晩年の作品で、82歳の落款が。
伊藤若冲「鶏図押絵貼屏風」6曲1双 紙本墨画 各167.0×348.0cm 個人蔵
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動物画が可愛すぎると話題の長沢蘆雪
3「群猿図屏風」
長沢蘆雪は円山応挙の弟子のひとりで、とても優秀だったと伝わります。「群猿図屏風」では、応挙ゆずりの見事な筆さばきを披露。猿の生態を写生的に描きつつも、人間生活を風刺するようなユーモアが滲みます。猿の切ない表情は蘆雪ならでは。
長沢蘆雪「群猿図屏風」重要文化財 6曲1双 紙本墨画 天明7(1787)年 各159.0×361.0cm 草堂寺
4「虎図襖」
この襖絵は、もともと応挙が描くはずの作品でした。和歌山県串本町にある無量寺の僧・愚海(ぐかい)が応挙を訪ね、東福寺系の寺の襖絵制作を依頼したものの、応挙には行けない事情があり、代わりに描いたのが蘆雪。近来、評価がうなぎのぼりの作品です。
長沢蘆雪「虎図襖」重要文化財 襖6面 紙本墨画 天明6(1786)年 無量寺
5「白象黒牛図屏風」
画面からはみ出すほどの大きさで、黒い牛と白い象が対照的に描かれている屏風。通称「黒白図」。白い象の背には2羽のカラス、黒牛の腹には小さな白い仔犬が寄り添っています。
長沢蘆雪「白象黒牛図屏風」6曲1双 紙本墨画 各155.3×359.0cm エツコ&ジョー・プライスコレクション
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江戸っ子にも大人気! 奇想の浮世絵といえば歌川国芳
6「みかけはこはゐがとんだいゞ人だ」
顔のつくりをよく見ると、なんと裸の人物を組み合わせて描かれています! 国芳の遊び心を反映した寄せ絵シリーズでも、評価の高い作品です。
歌川国芳「みかけはこはゐがとんだいゞ人だ」大判錦絵 弘化4〜嘉永5(1847〜1852)年 37.0×25.6cm 山口県立萩美術館・浦上記念館
7「東都首尾の松之図」
主役のはずの“松”はちょっぴり姿を見せるだけ。蟹やふな虫のうごめく石垣の一隅に、極端に接近した、国芳らしい不思議な構図の作品です。遥か遠くに、舟と人と橋が芥子粒(けしつぶ)のように見えていて、上部のタンポポが超現実的な雰囲気を醸しています。
歌川国芳「東都首尾の松之図」木版画 江戸時代後期 26.2×37.5cm
8「東都三ッ股の図」
江戸の船大工が防腐のために船腹を焼く日常の様子が描かれています。右手の大きな橋が永代橋(えいたいばし)で、その向こうが佃島。左の遠景には万年橋、その近くにはタワーのような巨大建造物が! 近年、「国芳は東京スカイツリーを予見していた!?」と話題になった作品です。
歌川国芳「東都三ッ股の図」木版画 江戸時代 25.4×36.8cm 写真提供/Alamy(PPS通信社)
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親子揃って天才絵師。葛飾北斎と娘・応為
9「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」
世界一有名な浮世絵といっても過言ではない、北斎の“Great Wave”。日本全国のさまざまな場所から富士山を描いたシリーズ「冨嶽三十六景」のうちの一図です。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」横大判錦絵 天保2〜4(1831〜1833)年ごろ 24.8×37.3cm 千葉市美術館
10「円窓の美人図」
画号に「葛飾北斎」を使用した、読本の挿絵に全力を注いだ時代の肉筆画。落款に見られる「九々蜃(きゅうきゅうしん)」という号は、文化2年ごろにのみ用いたもの。貴重な作品です。
葛飾北斎「円窓の美人図」絹本額面 文化2(1805)年ごろ シンシナティ美術館
11「鎌倉勝景図巻」
鎌倉から江の島までの名所30カ所を9mにもおよぶ長巻に描いた「鎌倉勝景図巻」は、北斎30代の作。多様な作風の北斎作品のなかでも、おだやかさが際立っている作品です。
葛飾北斎「鎌倉勝景図巻」木版着彩紙本1巻 寛政5〜6(1793〜1794)年 島根県立美術館(永田コレクション)
12「吉原格子先之図」
葛飾応為(おうい)は、北斎の三女。父譲りの画才の持ち主で、日本美術で表現されてこなかった“闇”という概念を肉筆浮世絵で表現しました。女性の描き方は、北斎をしのぐほどといわれています。
葛飾応為「吉原格子先之図」1幅 紙本着色 文政〜天保年間(1818〜1844)ごろ 26.3×39.8cm 太田記念美術館
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日本画史上最強の絵師集団・狩野派はやっぱりスゴい!
13「四季松図屏風」
総金箔に4本の松のみという、極めてシンプルな構成の屏風。右隻に、すっと伸びた春の若松と夏の力強い松。左隻には落ち着いた趣の秋の松と冬の老松を描き、四季で人生を表しています。
狩野探幽「四季松図屏風」6曲1双 紙本金地着色 江戸時代 各156.5×367.0cm 大徳寺
14「雪汀水禽図屏風」
京狩野派二代で奇想と称された狩野山雪の作品。幾何学的でエキセントリックな画面構成のセンスがいかんなく発揮された屏風は、波の描写など、細部にまで繊細な筆づかいが行き届いているのも特徴のひとつです。
狩野山雪「雪汀水禽図屏風」重要文化財 6曲1双(右隻)紙本着色 江戸時代(17世紀前半)各153.6×357.6cm 個人蔵
15「老梅図襖」
山雪が晩年に描いた襖絵。大きな老梅が上下左右に幹や枝を伸ばし、不気味なことこの上ありません。内なるエネルギーがうねっているような老木に、山雪は自分を投影したと考えられています。
狩野山雪「老梅図襖」襖4面 紙本金地着色 正保4(1647)年 各166.7×116.0cm メトロポリタン美術館
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江戸の異端児・曾我蕭白。エキセントリックな作風がクセになる!
16「風仙図屏風」
日本美術史学者・辻惟雄さんの著書「奇想の系譜」で紹介されたことで注目を集めるようになった蕭白の作品。だれにも真似できないような荒唐無稽なところが最大のポイントです。本作ではなんと、暴風を可視化!
曾我蕭白「風仙図屏風」6曲1隻 紙本墨画 宝暦14・明和元(1764)年ごろ 155.8×364.0cm ボストン美術館
17「雪山童子図」
群青と真紅の対比が生々しい「雪山童子図」は、釈迦が前世で若い僧として修行していたときの様子を描いた作品。仏教の守護神である帝釈天(ていしゃくてん)が、悪鬼の姿に化身して釈迦の修行への熱意を試している場面です。
曾我蕭白「雪山童子図」1幅 紙本着色 明和元(1764)年ごろ 169.8×124.8cm 継松寺
18「群仙図屏風」
6曲1双の屏風に8人の仙人が配されています。墨を基調に、けばけばしい着色を施したサイケデリックな画面で激しい不協和音をつくり出しているところが、いかにも蕭白らしい異端っぷり。
曾我蕭白「群仙図屏風」重要文化財 6曲1双(左隻)紙本着色 172.0×378.0cm 明和元(1764)年 文化庁
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フェノロサもフリーアも魅了された! 江戸琳派の後継者・鈴木其一
19「椿に薄図屏風」
其一の代表作である「椿に薄図屏風」。デザイン的に描かれた椿と薄を、それぞれ金地と銀地に配し、対照的なイメージにしているところに趣があります。このセンスこそ其一の本領!
鈴木其一「椿に薄図屏風」2曲1双 紙本金地着色(椿図)・紙本銀地着色(薄図)江戸時代(19世紀)各152.0×167.6cm フリーア美術館
20「百鳥百獣図」
繊細きわまりない筆致で、さまざまな鳥や獣が描き出されています。ありとあらゆる生物を写し描こうという構想は、若冲から感化されたという可能性が指摘されています。
鈴木其一「百鳥百獣図」双幅 絹本着色 天保14(1843)年 各138.0×70.7cm キャサリン&トーマス・エドソンコレクション